自分の思いを「書」に託す。
創 作
■ 作品 アニメ「母性」
漢字の表意性・象形性に立ち戻り、その文字を動かす(アニメート)ことにより、その文字の力を借りて私の考えを伝えようとする試みである。
2024.03 京都芸術大学卒業制作作品
私は、今晩年を生きている。
偶に、我が家を訪れる幼い孫達と真剣に遊びながら考えることがある。 いまここに元気に遊ぶ孫たちと出会えたこと、三世代にわたり命をつなぐことができたこと、これこそが私の最大の功績ではなかったかと。
誰しもが当然のように行うこの営為であるが、私にとって、そしてきっと誰にとってもそれはけっして安穏な道のりではない。振り返ると薄氷の道、綱渡りのような道のりであったような気がする。 そう思うとき、父母や妻そして子供たちに、そして今日ここに私をあらしめたすべてのことに感謝の念が溢れてくる。
改めて思う。
命をつなぐその営為の中心をなすものは母性である。祖母・母・妻の、その多くは無償の行為と忍耐によって、その家に情愛が育まれ、その家の文化(Life style)、善悪・美醜の判断が引き継がれていく。
いま、周りを見渡すと母性が今ほど貶められている時代はないのではないか。 母性愛は、既に神話であるという。 現在は、出産・育児と賃金労働とが常に天秤にかけられている。 今日「輝く女性」とは、社会へ出て男と同等な立場で仕事ができる女性のことである。 そうした環境の中で、出産をし、育児をすることは、女性にとっては大きなハンディと考えられている。 一部の論者は、出産育児を性別役割分担によって女性に押し付けるのは、性差別であるとし、男女の「ジェンダー平等」の下、男性も同等に出産育児にかかわる負担を負うべきであるとする考えを展開する。(この論理には有無を言わさず相手を説き伏せるイデオロギー性を感ずる。また、西欧の「働くと損だ。それは奴隷にやらせておけ。」という貴族思想に立脚しているようにも思う。) 凍結卵子を使って、一人で子を産む人もいる。
既に賃労働の分野で社会進出を果たしている女性オピニオンリーダーたちの母性に対する発言は、更に辛辣である。 「子供を産むしか能のない女性」「穴と袋にしかなれない女」、「私のような子が生まれると嫌だから子は産まない。」等と「輝か」ない女性を卑しめ、母性を逆なでする。 こうした思想の帰結は、女性の出産・育児の完全アウトソースである。さらに、卵子・精子の市場化がメインストリームになっていくのではないかと推察される。
<予想される世界>
□ 女性は「煩わしい」男性との恋愛過程を経ず、精子バンクのカタログから精子を選び、受胎し子供を産む。
□ 女性が希望すれば、出産プロセスもアウトソースされる。人口子宮なども発明される。
□ 育児は、完全にアウトソースされる。(AI、ロボットによってマニュアルソフトの下、育てられる。良いとされるソフトは、言うまでもなく高価である。)
□ 男は、その品質を市場価値によって選別される精子提供者としてのみ機能する存在となる。
□ 家族は、生物上の男女間だけでなく、便宜的に形成され、また解体される。
イデオロギーと市場原理、効率性が支配する無機質な世界が待っている。 こんな世界を誰が望むだろうか。(望んでいる人もいる。)
私は、加藤百合子氏のつぎの言葉に目を開かされた。 「家庭育児の主な担い手である女性たちの多くは、その対価をお金で求めてはいないと思う。無償の立派な仕事に対して、それを担っていない側がその価値を理解し、きちんと評価すること。それだけで、報われるものなのだと思います。」(中日新聞2016.6.6「家事・育児という仕事」)
家庭、社会において、これから子供を産もうとする人、育児をする人に、彼女がどのような境遇にあろうとも、最大限の敬意と感謝の念が払われ、必要に応じもしくは必要を察して、援助がなされることにより、(夫がその中心にいることは説明の余地はない。)豊かにその仕事が全うされ、それを通じて、慈愛、情愛に満ちた、文化豊かな未来が待っていることを念じて、作品を制作する。
■ 書と水墨画を併置した作品群
現在ではほぼ分化して専門性を高めている書と画であるが、過去には未分化もしくは併存していた。お互いが再び融合することにより、新たな書の意味を表現できないものだろうか。(京都芸術大学卒業制作作品 2024.03)
西行秋を詠める
西行が詠んだ秋の和歌10句を味わうとともに、その句と月に模した雅号印(自作)により形作られた山の端の風情および水墨画も同時に鑑賞していただこうという作品である。 極力普通の人が読めるかなを使用した。(2024.3)
深山幽玄
水墨画が先にあり、そのイメージに合う文字を後でしたためた。人が滅多に訪れない山深い森、滝、そして岩の間を流れ落ちていく谷川をイメージした水墨画と、「深山幽寂」の文字とがお互いに引き立て合うことを狙った。
その風情を感じ取っていただければ幸いである。(2024.o3)
大素杳冥
古事記序文における天地創造のイメージから、文言も水墨画もほぼ同時に思いついたアイディアである。万物の始まり、まだ物事が定まっていない様を表現した。文言は、右払いなどが右へ回転していく木簡風の書風を用いた。
この水墨画は、アニメ「母性」の背景画に使用した。
詩文
お役立ちの書
後輩の役員就任祝いに贈呈した。
御本人のお名前の一字「澄」が入った熟語をTシャツとマグに記した。