空海は、唐の末期の文化人たちとの交流を通じて当時の最高の書を学んできたと考えられている。そして、それらを咀嚼して自分の書として記されたものが空海の書といわれてる。したがって、空海の書にはそれ以前の書の筆遣いがすべて使われているということである。
風信帖は、最澄に当てた親書であるが、他の要人(嵯峨天皇など)にも読まれることも考慮して、書かれたとされている。その現れか、風信帳を構成する三通の手紙はそれぞれ違う特徴があるといわれる。「忽披帖」は全体に行意が強く重心を低めに設定した文字で書かれていて、「忽恵帖」は草書が多用され筆意の連続が最も滑らかといわれる。今回のテーマである「風信帖」は、本来共存しない書法が調和的に共存する不思議な書であるとのこと。
「風信帖」は、全体として行が微妙に左に傾いている。一文字一文字についても、次第に右上がりがきつくなり、筆意の途切れるところでもとに戻しているように見受けられる。
また、太い文字と細い文字、大きい文字と小さい文字が共存している
文字の特徴は、一言で言えば「線筆変化の多様性」と言えるとのこと
具体的には次の各点が挙げられる。
①「つく」「ひく」「ひねる」の連続体、線質の変化が自然に必然的に書に現れる。
②八面出鋒(穂の使わない部分はない):穂をねじった際、いままで空気のあたっていた部分を使い点画をひく。
③進行方向に筆管は倒れる。(陰陽俯仰法)
④「撥ね」は、筆を返して穂先を研ぎ澄まし、意を残して筆を抜く。
⑤側筆と直筆が交互に現れるが、始筆と終筆は側筆が原則。
⑥手首は自由に動かす。円運動が基本。
⑦結構は右肩上がりが強い。
⑧虚画を意識する。
具体的に字を見ていこう。
風の一画目は、右上から入筆した後、穂をひねって起筆し、その反動で直線的に筆を引き下ろす。終筆は、突き当たったところで穂を返し、穂先を集めるように押し出す。二画目のそりは、横画をついたその反動で露峰(穂先は左)から中鋒、露法(穂先は上)と筆を返しながら一つひとつを丁寧に引き、最後に、来た方向とは逆の方向に押し上げながら穂先を集め筆を抜く。内部の横画は放射形をなす。それが身体的に自然なのだろう。なんとも魅力的な「風」である。
信も、旁の横画は放射形をなっている。最終画の最後は筆を止めた後穂先を整え跳ね出す。顔法に似た筆遣いである。
赤丸部分が特徴である。 偏の二画目は、一画目から逆筆で入筆し加圧する。終筆部で穂先を集めながら穂を裏返し、裏返したところから三画目の始筆に向け撥ねだす。三画目は紙面を突き上げた後、右上に向けて撥ねる。
恵の外形は上記の通り。横画はかなり傾いている。字全体も右へつんのめっているように見えるが安定している。
止の三画は左上から入筆し、反らせるように筆をひねり、ついた後、その反動で右上がりの強い横画をひく。
上記①~⑧までの特徴が全て見受けられる。
観の最終画の撥ねは、他と同様穂先を集め意を込めて抜く。
妙の最終画は伸びやかに払っている。
ついて回ってつく円運動が顕著に見られる。
法の最終画はついた後、穂を集めはねだしている。この骨太な字体にも顔法の影響が現れているとされる。
體の一画目の入筆は風の場合と同様である。
因の国構えは左上を開けている。
二画目は外に力を加える形で丸みを出す。
他は例のついて回る円運動の連続である。
空海といろいろな意味で比較される最澄の書は晉唐の書法を忠実に守っているといわれる。それに対し、空海の書は上記書法に加え、篆隷、雑体書、飛白体、顔真卿の書風、古代インド文字などを習得し、自分のものとした上で、目的に応じて率意で書いているということである。また、最澄の書はほぼ完成された書であるのに対し、空海の書は、生涯を通じて変化し続けたと言われる。習得することはそう容易いことではなさそうである。
とはいえ、今までの学習を通じて作品を仕上げてみた。以下の通りである。
次回は、宋の三書家-蘇軾・黄庭堅・米芾-を取り上げる。さしあたり、先へどんどん進んでいく。また、戻ってくればいいのだから。
点画は直線的で、転折はとんがっている。
右上がりが強く、字は左に傾いている。
同じ字でも書きぶりは異なる。
左払いは長く伸びやか、右払いは短いが払いはしっかり書く。
穂先に力をためて力強く運筆する。
偏が小さいと旁は大きい。上部が右に傾くと下部は左に傾く。それぞれの横画は太さも長さも違い、 しかも平行ではない。それでいて力強くバランスが取れている。不思議な書風である。
円筆系の特徴として、次のことが挙げられる。
上記を基本としながら、入筆・収筆、向勢・背勢に多様なバリエーションが見られる。
字形はやや右上がり、点画に細太の変化が少ない。角張っている。
始筆は大きく鋭く入れて、そのまま筆を押すように露鋒で運筆する。
転折は、角を2つ作るように一旦右下へ筆を引いてから真下に向けて筆を下ろす。
点・払い・ハネなどは三角形を形成する。
字形は横長。
先生は、留意事項として「5~6文字課題の制作にあたっては、それぞれの文字について点画は太く、その隙間は細く書きます。一方、字間については、それぞれの文字の個性が活かされるようしっかり開けるようにします。」と付け加えた。
特徴として、次のことが挙げられる。(その用筆は、顔法といわれる。)
基本は直筆・蔵鋒。線は太い。
向かい合う縦画は向勢
始筆・終筆に、「蚕頭燕尾」がみられる。
字形は向勢。ほとんどの字は正方形に近い。
<蚕頭燕尾の書き方> 下図参照
始筆・・・逆筆で入筆し、蚕の頭のように筆先を丸めて蔵法で力を抜かずむしろ筆圧を加えながら運筆する。最後に同じく筆を丸めて筆を収める。
払いやはね・・・終筆で穂先をまとめて、一定の方向へ勢いよく払う。その払いは、あたかも、燕の尾羽根のようにみえる。
「彼の書風は、現在の印刷活字に採用され、今でも実用レベルで使われています。」
向勢・背勢、逆筆、露鋒・蔵鋒、直筆・側筆、俯仰等あらゆる用筆が認められる。
行意、隷意を有し、気脈を重んじた用筆となっている。
筆使いの遅速緩急、筆圧の軽重が求められる。
運筆は踊るようなリズムを伴い、その結果、字の線は細くとも強さと粘りのある字となるのだ。
特徴として、次のことが挙げられる。
先生は虞の人となりを次のように補足した。「虞世南は、冷静沈着で学才豊かであることに加え、謙虚で物静かだったと伝えられています。太宗は、彼の人物・識見をことのほか愛しましたが、書にも彼の性格が現れているものと思われます。」
先生は最後ににこう付け加えた。「欧陽詢自身は容貌が醜く背も低かったため、その体裁にコンプレックスを抱いていたと伝えられます。その影響が書風に表れているのかもしれません。」